おしらせ, 大場佳恵のブログ
2026地主会への道・21
2026地主会への道・21
「お父さん、中島みゆきさんの糸っていう曲、知ってる?」
「おう、知っとるよ。ラジオでよくかかっとるわ」
ある日の私と父の会話である。
表具師である父は、今年いっぱいで仕事を引退するらしい。
表具師とは掛軸をつくる職人である。
昨年、父が入院した際にお世話になった医療関係者の女性が、
無類の美術マニアで、父の退院後に私の実家に遊びに来てくれるようになった。
父とその女性と母は仲良しになり、父が掛軸レッスンを行うことになった。
私も仲間に入れてもらうことになった。
期間限定のなんちゃって弟子の誕生である。
表具で使う生地は美しい。金が織り込まれているなんとも贅沢な生地もある。日本古来の模様も美しすぎる。
私の掛軸レッスン初日。
「縦糸と横糸があるやろ?その目を揃えるんや。はみ出してる糸は抜けば良い」
と父は言う。
「これ、一本ずつ糸を抜いていったら全部抜けてしまって、生地無くなるね?」
「あんたねー・・・。キリの良いところってあるやろ。そんな強く引っ張ったらダメや!」
と師匠に怒られる。
「なるほど。そーっと取り扱わなきゃダメなんやね。ギター科の地主先生にも強く弾きすぎやって言われるし、
アロマ科の奈保美先生にも佳恵ちゃんのマッサージは強めやねって言われるんやわ」
と、各ジャンルについて何でも力が強すぎることを反省する弟子。
「そりゃ、だめやわ!」
とギターもマッサージも掛軸でも父にダメだしされる。
裏打ちの第一段階の作業が終わって、彼が今年の地主会で歌う曲を考えながらその生地を眺める。
一本一本の縦と横の糸を職人さんが織って、その生地を裁断して幾重にも裏打ちなどの工程を繰り返し、掛軸本体に耐久性を持たせる。
手間暇をかけたものには力が宿る。
彼は私と違って、とても丁寧にモノも歌も取り扱う。
彼が掛軸を作ったら、おそらく私より仕事がキレイで父に褒められるだろう。
掛軸と歌が無くても人間はきっと生きていけるのだろう。
しかし私は、掛軸と歌がある世界で生きていたいと思う。
彼もきっと、そう思ってくれる人だと思う。
掛軸が完成したら、彼に見てもらおう。

大場佳恵
